第三話「メタルガード出動」

 月面晴れの海、ルナシティIIIの西のはずれにある貨物宇宙港のそのまた端にある通称、ジャンクヤード。そのまたはずれにある鉄くずの山に面した小さな クレーターがある、その地下には縦にトンネルを掘り抜いたサイロのような空間があった。その底には離着床が作られている。サイロの高さは125m。その中 にペンシル型の先が尖った三枚羽根の「ロケット」ともミサイルとも見えそうな宇宙船が納まっていた。もちろん真空の宇宙空間では流線型などは意味をなさな いわけだし実際の所この形状は一つの状態に過ぎない。それはともかくその宇宙船の上部にあるコクピットに整備工のマーリンとジェシィとアリスの3人がいて 各部点検を行っていた。この船には管制用AIが搭載されているのでチェックは「彼」とのやり取りが主になる。

『メインタンクの推進剤の定常圧力は2300から2430、緊急発進体制時との誤差を考えると7分から8分の調整時間が必要だがヘリカル調整弁制御のソフ トウェアの更新で並行処理できそうだ』
「そうね、チャーリー。それで行きましょう。IPDの超伝導モノコイル1番から6番の規定値は?」
『異常なし。ただし3番に若干ふらつきがあるので要調整かもしれないね』
「んーなんだ、大抵の普通の核融合ユニットはわかるんじゃがどうもこのインパルスエンジンてぇのは難しくてなぁ…こればっかりはこっちの常識が通用せんで ナ」マーリンがぼやく。
「そこのところは仕方ないです。なにせこれはうちだけのシステムで扱い自体難しいものですし。現状でおじさんは十二分よくやってくれてますよ。これ以上設 備を整える事も出来ますがそれじゃ隠しきれなくなっちゃいますから」ジェシィは素直に感想をのべた。


「はぁ〜こっちは終わったよぉ。レスキュー用のサポートシステムやら管制通信各種センサーアンテナ問題無し。DOLL-ES(ドレス)はメンテがいるみた いだけど、これ降ろさないとだめなのかな?」
アリスが下の階層からリフトで上がって来て報告する。
「だめ?使えないのかな?」ジェシィが作業用パワードスーツの件で聞き返す。
「動作は問題ないけど有重力下のバランサー調節が変?だましだましで使えない事も無いけど」
「んあー、わしゃ宇宙船屋でなそっちゃの方も専門外ですまんのオ」
「こういうのはスージーが得意なんだけどね。今度実家に帰った時に見てもらうわ」
「そういう事になるかぁ。でもなんか起こったらちょっと困るよ」
「わはは、なんか起こったらそんときゃはそんときじゃヨ!」
「おじさーんむせきにーん」アリスはあきれる
「まーなんだ、とりあえずこのあたりはウニバックの本家本元じゃから大丈夫だろて」
「UNIVACねぇ…サリーおばさんじゃないけどアレって使えるのかしらねぇ」
「んー。でも今の所は割とがんばってるとは思うけどね」
『緊急回線に情報あり。ルナシティIII中央ブロックで異常事態発生。センタータワーの基部付近一帯で軽度な火災多数発生。同時にタワーの最上階展望室で 立てこもり事件が発生した模様』
AIのチャーリーが事件の発生を通信回線の傍受で見つけたらしく報告して来た。
「テロぉ?まぁでもたいした事なさそうじゃん。そゆのは警察にまかしとけば」
ああ、またかといった感じでアリスが片付けようとする。
『犯人は人質三名を盾にテロリストの釈放を要求している。犯行グループは爆弾を所有。過激な環境保護団体の「アースライト」を名乗っているらしい』
「アースライトぉ!?あーやだやだ、あいつらみんな捕まったんじゃなかったの!?」
アリスが露骨に嫌な顔をした。
「残党か名前を勝手に名乗ってるとかいろいろあるわよ。末端の構成員はたいした罪を犯してないから釈放されたのもいるそうだし」
「もー全員死刑でいいじゃない。あんなキチ○イ集団!あたしたちが阻止しなかったら”人工太陽”の超高密度放射線被曝で地球圏で何十万人死んだかわかんな いっていうのに!」
「こらこら、過激な事ゆうんじゃないヨ」マーリンが苦笑しながらさすがに突っ込んだ。
「まぁとりあえず…」望遠ズームで画面に映されたセントラルタワーを見てジェシィが言った。
「今の所は私たちの出る幕はなさそうよね」





『飛行禁止?事態を報告してもらわんと困る』モニター越しの相手が不満を述べる
「今送った。細かい所はそっちのデータ少佐に聞いとくれ。とりあえず今は全面飛行禁止だ」
「主任、データって誰ですか?」オペレータのひとりが眼鏡の主任の入間に聞いた。
「そういう昔っからの言い回しだよ。意味ぐらい自分で調べな、もちろん事が全部すんでからだ」
 ルナシティIII東ブロックC3にUNIVACの総本部があり同じ場所に管制司令部があった。
それに面した地区には専用の宇宙港があった。もともとは連邦宇宙軍の設備だがネオホンコン条約に基づき委譲されたものだ。宇宙港の設備のうち以前あった軍 事上機密関連の施設は撤収されてかわりにUNIVACの業務に合わせた設備に改装されている。
「タワー展望台に人質がいなけりゃ警察の仕事なんだがなぁ。思ったより厄介かもしれんぞ」
 入間主任は腕を組んだ。眼鏡に長い黒髪。いつも白衣を着ている30代の女性だ。口調はやや男っぽい。次々入ってくる情報を整理している最中だがどうも時 間に余裕が余り無い気がする。
「上はなんと言ってる?」さっきまで上層部と電話をしていた副主任のエドワードに聞いた。
「そちらでナントカ対応してくれと、テロリストの釈放は基本的にないと思ってくれ、と以上」
「やぱし。UNIVACが頼んでも連邦がウンというわきゃないんだよなぁ…なのにあのバカどもが」
バカどもとは展望台に立てこもった犯人たちである。一時間以内に要求を呑まないと人質を一人づつ殺すとかいっている。おまけに爆弾まで持っていて最悪の場 合自爆も辞さないとかいっている。キチガイもいいところだ。展望台には備え付けのエレベータでしか行けなくて片方はすでに使用不能、もう一方は上に上がっ たまま。その間には1000mもの高さの真空の空間がそびえ立っている。おまけにルナシティIII一帯の一切の宇宙船の飛行禁止まで要求して来た。とても じゃないが人間業じゃ手も脚も出ない…となれば。
「現在出動可能な一番近い実動部隊は?ちなみに人間以外な」入間はオペレータに聞いた。


「ワルキューレ隊が現在当基地にいます…メタルガード、ですが」不安そうな面持ちで答えが返って来た。
「十分じゃん、出撃準備させてくれ」腕を組んだままふ ふん、というかんじで命令を出した。
「え?は、はい…」何か意見を言いたそうな表情をしたがここは従うだけだ。
「空間特別機動隊、ワルキューレ小隊の隊長を出してくれ」正面モニタの端に男の顔が映る。
三十代はじめ、黒いぼさぼさの髪の日本人で右の頬に傷跡がある。
「新田原か、丁度いい。おまえさんとこの娘っ子共に出てもらうぞ」主任の顔なじみらしい。
『人質立てこもりならセイバードッグの仕事だろ?俺たちが出ていいのか?』
セイバードッグとはUNIVACの誇るサイボーグからなるエリート精鋭部隊の事だ。
「いいよ。つか時間がない、こういう時こそ空間特機の腕の見せ所じゃないか。ただし」
入間は続けた。「船は出せん。自力でタワーにたどり着いてくれ。幸いにも基部での混乱は収束しはじめている。装備に関しては任せる。それともちろん人質の 人命が最優先だからね」入間は最後に念を押した。
『それはあいつらが一番よくわかっている。了解した、出来る限りの事はする。オーバー』
通信が切れた。後は連中にまかすしかない。
「UNIVACの目と鼻の先でふざけたまねしやがって。バカ共には後悔させてやるよ」入間がそこにいる全員に聞こえるように言った。


「人類はもう引き返すべきなんだよ!」男は銃を手にしたままさっきと同じ演説を繰り返した。
「見てみろ!月の表面をこんなにしてしまって!お前たち恥ずかしくないのか!?」
展望台からはルナシティIIIの全貌が見える。曰く人類は地球を汚し資源を掘りあさってそれが無くなると今度は月を宇宙を破壊して貪欲にも食い尽くそうと している。人類はそうまでして生き延びなければならないのか?否、断じて否である。人類が自らの罪深い業の為に滅ぶのは仕方がない、それは甘んじて受けよ う。だが宇宙を巻き込むのはもう止めるべきなのだ。
 月面都市、マスドライバー、発電衛星、スペースコロニー、軌道エレベータ、資源を求めて小惑星を運び削り倒しさらに木星にまで手を伸ばす。火星ではテラ フォーミングなどという破壊的な暴挙に出ている。もうたくさんだ!人類は母なる地球に帰るべきだ!その結果たとえ滅んだとしてもそれは運命なのだ。そうい う崇高な意思をもった同志たちを再び解放する為にあえて血を手で汚そう、この命ですら惜しいものとは思わない。われわれの理想は必ず成し遂げられねばなら な いものなのだ!、と。
「まぁ俺はそれに加えてだ…」マリーを捕らえて首筋に高周波ナイフを突きつけている方の男が半ば興奮した様子で男の演説に続けた。床に転がって動かなく なったロボットを見ながら言った
「あのくそったれ共を全部ぶっ壊してやりてぇ…ロボットだのアンドロイドだの!人間の紛い物風情が!特にアンドロイドだ、あんなデク人形にうつつを抜かす キモヲタ共もついでにぶっ殺してやりてぇ…」そこまで憎むなにか深い事情があるのだろうが当のアンドロイドであるいおんにはぞっとしない言葉だ。だがそれ よりも…人質になっているマリーと祖母をなんとかして助けてあげたかった。
「わかるぞ、同志。人間の偽物なぞ不要だ。男の勝手な欲望で自分らに都合のいいだけの虚像を作り上げあげくには現実の女性より素晴らしいなどと持ち上げる 輩もいるほどだ。あんなものは女性に対する冒涜でしかない。現実の女性とはもっと崇高で素晴らしい存在なのだ!人間は人工知能などという冷たいだけのプロ グラムを捨てて現実に自然に帰るべきなのだ!!」熱を帯びた言葉のようだがいおんには何となく薄っぺらく感じた。ナイフ男の憎悪は本物らしいがこっちの方 はそれほどでもない温度差を感じた。

 エレベータドア付近にある内線電話のコールが鳴った。リーダー格の方の男が受話器を取って応対する。
「わたしだ、要求は呑めるか?…なに?…金なぞいらん。我々の要求は変わらんぞ……だめだ……うむ……………お前では埒があかん。連邦の代表者を出 せ……………そうか、わかった」
 男は受話器を置くといおんと老婦人の方を向いてにやりと笑った。
「下にいるのが物わかりの悪い奴らでな、君らはあまり運がよくないようだ」ピストルを2人に向けた。「こっちを向け。ゆっくりだ」言われたとおりに二人は 体の向きを変えた。
「気の毒だがどちらか一人死んでもらうよ」銃口を二人の丁度真ん中に合わせた。
「本来私は敬老の精神を大事にしているのだがこの場合仕方が無い。若い娘さんの方を先に撃つのはあまり得策とは言えないものでね」銃口を右にマリーの祖母 に向けた。
「お、おばぁちゃん!!」マリーが叫んで暴れようとするも男に口をふさがれるままになる
「私はどうなっても構いません…マリーを、孫だけは助けてやってくださいお願いです」彼女は死を覚悟したのか一歩前に出てマリーだけは助けるように懇願し た。
「美しい…愛とは最高に美しいものだ。残念だよ、貴女のような人ばかりだったなら人類は道を誤らなかったかもしれない」そういいながら少しの躊躇も見せず に引き金を引いた。
「だめぇええ!!!!!!!」ほとんど無意識に体が動いた。いおんは老婦人の体を突き飛ばし銃口の前に体をさらした。バシューーンン!!!という破裂する ような響きと共にセラミック製の銃身から超高圧ガスの力で数ミリ大の硬化カーボンの散弾が撃ち出された。それは少女の服を皮膚を食い破り体の中を跳ね回っ て肉をはじきとばし骨を砕き内蔵を辺りにぶちまけて無惨な肉のかたまりに変える程の威力があったのだ。
「!」
「いおんちゃん!!!!」
「!!!」
「…な・に…?」



 それから時間をさかのぼる事数分余り、UNIVACの本部のある居住ブロックの上部に開いたエアロックから4人ばかり少女達が姿を現した。体の各部を装 甲で固め、背中には宇宙で活動する為に必要なバックパックとプロペラントタンク。その他さまざまな装備を手に持ったり背中にしょったりしている。真空の月 面なのにそれはすぐに少女だとわかった。なぜならば彼女たちは宇宙服を着ていなかった。剥き出しの素顔のままで空気の無い世界でも平気な顔をして立ってい る。着ていないというより必要が無かったのだ。そこにクレーンで引き上げられた月面車が現れた。そこに乗っている男は従来通りの不格好な宇宙服に身を固め ている。男は無線で少女たちに話しかけた。彼女たちは頭部に付けたアンテナからお互いに自由に電波を使って会話出来た。
『他に方法が無い。ルナシティのブロックの隙間をぬってタワーに近づいてくれ。奴らには決して気付かれないように慎重に、だが速やかに行動して欲しい』声 の主は隊長の新田原だった。


「了解。各自準備はいいな?あくまでも人質の救出が最優先だ。いくぞ」青い髪に青い瞳のリーダー格らしい少女が他のメンバーにいった。PPG-プロテクト パワードギアと呼ばれる増加装甲スーツの色は紫色をしている。名前はセリナ。彼女は軽くジャンプするとすっかり影が深くなった各ブロックの間にある溝の下 に身を躍らせた。二番手は緑の髪に背の高い娘でグラマラスなボディをオレンジのPPGに包んでいる。名前はランカ。危険な作戦なはずなのにどこか楽しそう だ。
「いくぜ、ワルキューレ小隊。二番手ランカ様だ、遅れんなよおまえら」セリナの後に続きながら残った二人に言った。その二人はあるまとRDという名前だ。
「こらっオレたちをおいてくなーっ!いくぞ、RD!」猫の耳のようなアンテナに緑と白がベースカラーのPPGをつけたほうが、あるま。
「…了解です。」一番小柄で青のPPGを装備している無口で無表情な方は”RD”と呼ばれている。彼女の頭部のセンサーはウサギの耳のように他のメンバー より大きかった。
あるまとRDの二人は同時に闇の続く回廊に身を投じた。



 彼女たちはメタルガードと呼ばれる空間特別機動隊、UNIVACの強化アンドロイド部隊だった。
スーツの各部に内蔵されたスラスターを噴射させ月面都市の構造物の間を滑るように高速で移動して行く。その間は平らではなくいろいろなパイプやケーブル、 外部にある機械や構造物があちらこちら出っ張っているのだが彼女たちは何の苦もなくすり抜けて行く。真空の中ではスラスターの炎もガスがすぐに拡散してし まうのでほとんど目立たない。それでも気付かれないように速やかにタワーのある中央ブロックに近づいて行く。突き当たりを右に斜めに進んで次の角を左にと 六角形のブロックの縁をなぞっていった。やがて4人は中央ブロックの端、タワーの影が交わっている部分に到達した。そこからタワー基部までは1km余り。 セリナは展望台の方を見上げた。
(案外高いな…)と思った。



 散弾がぽろぽろと床に転がった。少女はその場にうずくまって腹部を抱えて震えている。
「い…痛い……」散弾をまともにくらった衝撃に耐えていた。アンドロイドだからといって不死身ではない、生身の人間よりいくらか頑丈なだけだし人間と同じ 五感、痛覚を持っている。体組織の表面にいくらかダメージを受けておりその部分が熱いぐらい痛かった。着ている服が破れて下に着ているインナースーツがは だけている。腹部を押さえている手から蜂蜜色の内部循環液が滲み流れ出していた。銃撃を感知した展望台の保安システムは自動的に防御シャッターを作動させ すべての展望用の窓を閉鎖させた。
「そうか、おまえは…アンドロイドなのだな?」男は冷静に判断した。その言葉を聞いたもう一人の男の方はみるみるうちに顔を真っ赤にして激しい敵意をむき だしにした。
「なにィッ!!!おいっ!!そいつをオレにやらせろっ!!今すぐぶっ壊してやらぁ!!!!!」
「君はそのままだ、その女の子をしっかり捕まえておいて欲しいな」いいながらジャケットの内側から予備のカートリッジを出すと弾倉を交換した。炸薬代わり のガスタンクとさっきのより大きめの散弾が仕込まれている。殺傷能力はさっきの非ではなくいおんの電脳を納めた頭部外殻を中身ごと破壊するには十分だっ た。


「聞こえなかったのか?」冷たい声で繰り返すのを聞いてもうひとりはしぶしぶ従った。なにかまだぶつぶつのろいの言葉らしいものをつぶやいている。
「さてと。君のような機械人形はいくら体を壊しても平気だからね。電脳を潰さないと完全に機能停止できないわけだ。なぁに心配いらんよ、君に恐怖や痛みが あるように見えてもそれはただのプログラムだから。実際には存在していないのと同じ事、私も良心が傷まなくてすむしね」
 いいながら男はいおんの頭、額の部分にぴたりと銃口を突きつけた。
「やめてぇ!!いおんちゃんをいじめちゃやぁ〜〜っ離してっはなしてよおっ!!!」マリーが暴れ出すも男にがっちり押さえられて身動きができない。いおん はこの状況でもなんとかしたい、そう思ったがもはや打つ手はない…のか?何か、何かないのか?と、うずくまった状態でなんとか体を支えている左手の方の先 に何か硬いものの感触があった。それは街であの白い猫に会った時に手にした謎の三角形の金属盤だった。 
これは…確か……指を表面にはわせると何か言葉のようなものが心の中にだんだん浮かんで来た……


[コレハナニ?…コレハ……]


「すくなくとも」男は続ける「この瞬間に人間の人質の少女として君は”死ぬ”んだ。その分そこのご婦人も寿命が少し延びるしね。最後の最後で人間のお役に 立てて幸せじゃないのかね?そうは思わないか?」皮肉まじりにいった。「ちげぇねぇ」もう一人の男が下品に笑って同意する。
そして男はいおんの頭に突きつけている銃の引き金に力をこめた。



******



『撃たれた?』望遠スコープで事件の様子を見守っていたAIのチャーリーが報告する。
『人質の一人が撃たれたらしい、展望台の防御シャッターが作動したので中の様子はわからなくなったけど』悪い知らせを聞いてジェシィの顔が曇る。この手の 事件はたまにあるが自分たちの目の前で起こるのは気分が良くない。
「あーあ、やっぱりだめじゃない」アリスがUNIVACに対して言った。「結局何にもしてないのね」
『いや、もう行動を起こしているよ。ただ少し遅かったかもしれないが』チャーリーはタワーの基部をズームアップした。影の中に何か動くものがあった。する するとタワーを登り始めている。
「間に合うかな…撃たれた人は大丈夫なのかしら?」ジェシィが心配する「それにしてもあんなとこに立てこもってどうするつもりかしら?自分たちだって逃げ られないじゃない」
「知らない、キチ○イの考えなんて」アリスはそんな事考えてどーすんのよ?という口調だ。
『ちょっと待った、ここの貨物港のドックから無断発進する船がいる。管制センターが止めたが構わず発進した』チャーリーは画像を表示する。それはさっきア リスが見ていた小惑星工作船だった。飛行禁止は解けていない、シャッターがしまったので直接犯人からは見えないかもしれないが異常な行動なのにはかわりな い。
『GN-41型ミサイルポッド2基、三連装7.7mmFF5C機関銃、F級レーザー削岩トーチを搭載している。ルートはまっすぐタワーに向かっている』 チャーリーの分析を聞いてジェシィはハッとなった。
「あの船もグルなの!?チャーリー、すぐ連絡して!緊急回線Sの12で言えばすぐに伝わるから!」
IDとパスワード入力画面がジェシィの手元のモニタに表示、素早く打ち込むと通話機を手に取った。
何が起こったのかよくわからないアリスとマーリンは顔を見合わせる。
「あー、そか。どうも変だと思った。あの船で展望台まで行って仲間を助けるのね」とアリス
「んー?あの船であんなとこに付けられるのかのぉ?凄い腕のパイロットがいるのかも知れんナ」
「…ええそうです。最悪の場合は……」通信するジェシィの口調はなんだかとても深刻な響きだ。


 UNIVAC司令部。重い空気の中、事件を見守る入間にオペレータが声をかける。
「主任、緊急回線からの通信です。重要度Sの12」
「Sの12?なんだ?連邦のお偉いさんから直接来たんじゃないだろね」もちろん皮肉だ。
「あ、いえ…それが匿名でして…」オペレータは言いにくそうに行った。
「はぁ!?なに?今忙しいのよ?匿名って何?フザケテンノ???」入間は声を荒げる。
「え、えっとぉ……コードネームで”天使”を名乗ってるのですが…」
「…って!バカッそれを速く言え!!!!こっちに回せ!!」入間の表情が険しくなった。
「私だ……ふむ、そうか。……なるほど、そうかもしれん。……ありがとう」
”天使”を名乗る人物からの通信を終えると入間は指示を出した。


 メタルガード、ワルキューレ小隊はタワーの外部部分800m高の地点に達していた。そこには外に向かって張り出している中間部機械室があって4人はその 上に登り上げた。RDがパネルを開けコネクタを差し込んでデータ回線に接続する。
「人質の一人が撃たれたらしい」セリナは隊長の新田原からの報告を聞いた。
「ふざけやがって、やつら八つ裂きにしてやるよ」ランカが忌々しげにいった。あんたの倫理回路が焼き切れなきゃね、という皮肉はさておいてセリナは指示を 続ける。
「銃撃のせいで防御シャッターが下りた。中の様子はわかるか?」RDに聞く。
「…見えます。リンクさせます」展望台にある警備用のカメラの回線が直接入って来た。UNIVAC司令部からも同じ画像は送ってくるがここからならカメラ の角度も直接操作可能だった。
映像には撃たれた少女がうずくまっているのが見えた。どうやら即死ではないらしいがあまり猶予はなさそうだ。さて、どうするか?エアロックに使えるのはエ レベータ部分と展望台上部にある点検用の簡易エアロックぐらいだった。
「…セリナさん。」RDがチームリーダーに言った。
「私たちの仲間が…います。」
「仲間?」メンバーがRDの方を向く。
「…仲間です」確かにそう言った。



第三話了(つづく)
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第二話「ヘブンズゲートを越えて」>>
copyright by まりそん(marison)/UNIVAC広報課 2007

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